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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1070号 決定 1978年4月27日

抗告人

芦澤文彦

外一四名

右一五名代理人

内田剛弘

大内猛彦

相手方

第一製薬株式会社

右代表者

石黒武雄

外七名

主文

抗告人らの抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は、抗告人らの負担とする。

理由

抗告人らは、「原決定中、主文第二項の部分を取消す。東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第六、四四八号損害賠償請求事件について、抗告人らに対し、いずれも民事訴訟費用等に関する法律第三条第一項別表第一、第一項による手数料の納付について、訴訟上の救助を付与する。」との決定を求めたが、その理由とするところは別紙「抗告の理由」に記載のとおりである、

当裁判所も抗告人らが本案訴訟において勝訴の見込みがないとは言えないものであると認める。

そこで抗告人らが訴訟費用を支払う資力のない者に該当するか否かについて判断するが、先ず、民事訴訟法第一一八条にいう「訴訟費用ヲ支払フ資力ナキ者」の意義及びその判断基準については原決定書二枚目裏三行目ないし三枚目表六行目を引用する。

添付の記録によれば、抗告人らはいずれも筋短縮症に罹患したと主張する者及びその両親であつて前者はおのおの金三、四五〇万円、後者はおのおの各金一七二万五、〇〇〇円ずつの支払いを損害賠償として請求している者であることが認められるところ、訴えの提起に伴つて民事訴訟費用等に関する法律第三条第一項別表第一、第一項により納付すべき手数料の額を各別に算出し、子及び両親の請求額に対応する手数料額を合算すると、その額が金一九万九、二〇〇円となることは計数上明らかであり、また、総理府統計局発行の「家計調査報告書」によれば、昭和五〇年度の標準勤労者世帯(世帯人員3.82人)の実収入は、抗告人が主張するとおり、全国平均で年間約二八三万円(一か月金二三万六、一五二円)であることが認められるところ、抗告人らが訴訟を提起し、これを追行するに当つては、法定訴訟費用のほか種々の準備調査の費用、弁護土費用その他訴訟追行に附随する諸費用を支出することが必要となることがあるのは当然であり、その支出が訴訟費用支弁のための経済力に影響を及ぼすことは明らかであり、従つて抗告人らに法定訴訟費用を支払う資力があるかどうかを判定するに当つては右のような諸費用についても考慮せざるを得ないが、これを考慮し、前記昭和五〇年度の標準勤労者世帯の実収入額及び抗告人らが訴訟上の救助の付与を求める額を勘案すれば原則として同居の家族四人までの世帯につき年収合計金三〇〇万円程度をもつて一般的合理的基準とするのが相当であると認められる。

抗告人らは、本案訴訟である公害・薬害訴訟事件のようなものにおいては、特に恵まれた身分といい得る者以外の者については訴訟上の救助を付与すべきであるとする趣旨の主張をするが、訴訟救助は無資力者に対する国の扶助制度であつて、救助の付与を求める者の資力の有無によつてこれを付与すべきか否かを決すべきであり、抗告人らの主張するような公害・薬害訴訟事件であるからといつて、特に恵まれた身分といい得る者以外の者については訴訟上の救助を付与すべきであるということはできない。右の点に関する抗告人らの主張は理由がない。

抗告人芦澤文彦、同芦澤喜文、同芦澤清美らについては、同人らの同居の家族は、同人らのほか抗告人芦澤文彦の弟、妹及び同人の祖母の合計六名であるところ、昭和五一年度における抗告人芦澤喜文の年間収入は、金二四三万七、六七四円、抗告人芦澤清美の年間収入は金一九六万三、一〇〇円であり、右年度における右抗告人ら家族の年間収入は合計金四四〇万七七四円であり、子供の保育料として月約金二万円程度の費用を要することが一応認められ、抗告人秋山雅紀、同秋山勝、同秋山寿子らについては、右抗告人らの同居の家族は、同人ら及び抗告人秋山雅紀の姉の合計四名であるところ、昭和五一年度における抗告人秋山勝の年間収入は金二一二万三、五〇六円、抗告人秋山寿子の年間収入は金二一六万七、二一一円であり、右年度における右抗告人ら家族の年間収入は合計金四二九万七一七円であり、抗告人秋山寿子の両親に対する生活費の援助が年間金二〇万円程度、抗告人秋山寿子の母に子供の面倒をみてもらつているお礼としての月金一万円の支出が必要生活計費に加算されることが一応認められるところ、右事実によれば右抗告人ら各家族の年間収入は前記訴訟費用を支払う資力がないとする一般的合理的基準を相当程度に上廻ることが明らかであり、本件各疏明資料を総合してみても、右抗告人らに訴訟上の救助を付与すべき特段の事情があるものとは認められない。右抗告人らは、右抗告人らの各家庭では夫婦が働いているため名目上他の家庭より多くの収入を得ているが、これは夫婦が働かなければ生活が維持できないためであつて、妻にかかる負担は著しく、単に収入の計数上の数値だけによつて訴訟上の救助の許否が決定されるべきではないとの趣旨の主張をするが、右のような事情を勘案した上でもなお右抗告人らは、自己及びその同居の家族の生活に窮迫を来すのでなければ訴訟費用を支弁することができないとは認められない。

抗告人内田江美、同内田勇、同内田七七江らについては、同人らの同居の家族は、同人らのほか抗告人内田江美の兄内田雅己及び同抗告人の弟の合計五名であるところ、昭和五一年度における抗告人内田勇の年間収入は金三九〇万円であり、前記内田雅己も抗告人内田江美と同様の傷害を被つたとして東京地方裁判所昭和五一年(ワ)第一一、五七四号損害賠償請求事件をもつて訴訟を提起しており、同人は右事件について訴訟上の救助の付与を受けたことが一応認められるところ、右抗告人らは内田雅己は既に訴訟上の救助の付与を受けており、抗告人内田勇の収入や生活状況に特段の変化がないにもかかわらず今回訴訟上の救助の付与を拒むことは不当であるとの趣旨の主張をする。しかしながら、内田雅己にいかなる理由で訴訟上の救助の付与がされたのか、また同人に右付与がされた当時と本件抗告人らが救助の付与を求める時期との間に抗告人内田勇の収入や生活状況に特段の変化がないかどうかについては右抗告人らは何らの疏明をしないところであるし、また、一世帯中に筋短縮症児が二人いれば、通常の家庭とは比較し得ないほどの治療費等の負担が予想されるとの抗告人らの主張も主張自体極めて抽象的であつて、治療費等の負担により自己及びその同居の家族の生活に窮迫を来すのでなければ訴訟費用を支弁することができなくなるとの点についての疏明はない。

抗告人高野佳代、同高野春夫、同高野恵らについては、同人らの同居の家族は、同人らのほか抗告人高野佳代の弟、妹各一名の合計五名であるところ、昭和五一年度における抗告人高野春夫の年間収入は金三三〇万八、四七四円であり、申立人高野春夫の母高野みづに対する生活費一部援助月約二万円その他子供の眼病治療費などが若干必要生計費に加算されることが一応認められ、抗告人渡辺美果、同渡辺勝、同渡辺好子らについては、同人らの同居の家族は、同人らのほか抗告人渡辺美果の兄弟の合計四名であるところ、昭和五一年度における抗告人渡辺勝の年間収入は、金三三七万六、一七二円であり、抗告人渡辺勝の母に対する生活費の一部援助月約三万円などが必要生計費に加算されることが一応認められる。右抗告人らは、抗告人高野春夫及び同渡辺勝は相当程度の残業をして始めて前記程度の収入を得ているのであり、残業を命じられない場合には低額の基本給しか得られない旨の主張をするが、右両名とも一応昭和五一年度においては前記のような収入を得ているのであり、抗告人ら主張のような事情を勘案してもなお抗告人らは、自己及びその同居の家族の生活に窮迫を来すのでなければ訴訟費用を支弁することができないものと認めることはできない。

以上のとおりであり、抗告人らの訴訟上の救助の付与の申立をいずれも却下した原決定は相当であり、抗告人らの本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして主文のとおり決定する。

(西村宏一 舘忠彦 高林克己)

抗告の理由<省略>

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